ボングスは、なぜボングスたるのか? 2008年微笑みの国タイランドにて。 魔都とも謳われたそのワイルドシティは巨大な陰謀に包まれていた。 泣く子も黙る闇のシンジケートが社会の中心から消えつつあった。 政府が軍をもって街の隅々をお掃除する時代の終わりである。 いわゆる麻薬撲滅キャンペーンの壮絶な決着がつき始めていた頃の話だ。 ちょうどその頃、夜の蝶たちが商売に精を出す国際通りの路肩には、一様に不精な顔つきをした国籍のまるで違う男達がまるで光に集められた虫どものように大勢群がっていた。 眩いほどの赤いネオンが夕焼けの街を燃やすように照らし始める。 そこへだ、、 通りの向こう側から、 壮絶なムエタイ修行に励んでいたダンスギャング神風たくやがやってきた。 細やかなステップを刻みながら道の真ん中を闊歩する。 彼が街を歩くとその通りは華やかなステージへと変貌を遂げる。 レッツゴームービング!キングオブダンサー! 男どものリスペクトの眼差しを受けつつ前へと進む。 彼はみんなの憧れだ! ヒュールルルル、、生暖かい風が吹き抜けた。 通りの反対側から、 極真空手有段者でありロックンロールジーザズ、じぇり一流の登場である。 ロックの激しさにレゲエの緩さも交えたこの漢はこの街で凄腕のハスラーとして名を馳せていた。 エリート街道から突如汚らしい沼底へと転げ落ちた人生は何を語る。 荒野を切り裂く風が彼の周りを突き抜けた。一流は目を細める。 ブルース、、これぞブルースの痛みそのもの。 二人は互いの目をしっかりと見据え、そして立ち止まった。 ピリピリとした緊張が走る。 まさに強者同士の対峙である。 目と目が既に取っ組み合いを演じている、、天地を揺るがす程の火花が散った。 だが、神風は不思議と冷静だった。 「まぁ待て。まずは話を聴こう」 「なっ?!」 こんな状況でなんという冷静さ! しかも懐の深い、、もしかしてデキる漢かっ?! 刹那、なんとなく心を奪われた一流は神風という漢に近づいて行った。 だが、一流自身にとってはこの神風という漢どうやら一筋縄ではいかないであろう特級の難しさを持つ人間であったという事を知る。 それも数秒後に。 「うげぐぅっ!!」 神風は非情ともいえる容赦ないくらいのタイキックを振り切った。 これはプロでも受身を取る暇もないくらいのスピードだった。 鈍い音が街の隅々まで貫いた。 不意を突かれた一流は衝撃に耐え切れずゆっくりと地面に沈んだ。 そのキックのダメージの数パーセンテージには、会ったばかりの漢にいきなり裏切られてしまった、という精神的ショック性による鈍痛も含まれていた。 「くっ、この漢のレベルは実に高い、、」 力が入らない。神風の打撃は神経をも遮断させたようだった。 このままでは百獣の王ライオンが格下の草食動物の頚動脈にしっかりと噛み付き完全に息の根を止めそれを己の血と肉に変えるように、目の前の神風もまたあざ笑うかのようにトドメを刺しに来るのは時間の問題だった。 このまま駄目顔で白旗を揚げたって意味が無い。 この街では武士の情けなど通用しないのだ。 ヤルかヤラレルか、、。 漢としてそして人間としてどうあるべきか心に問い合わせてみた。 そして、、 一流はまた再び漢として立ち上がる事を選んだ。 負けたっていい、、元チャンピオンとしてのプライドはせめてもの置き土産にしたい。 くの字で足を揃えもがきながら体を上に持ち上げた。 せめてファイティングポーズが取れるまで己に屈しない、、。 「うくぅっ、、、!」 その時だった、、 神風は何かを感じ取ったようだ。 手を耳に当て周囲の音を聴き分けている。 動物的な感が彼にこのような特殊能力なるものを与えている。 遠方より地鳴りともいえる衝撃を伴って迫ってくる物体。 「なっ?!」 これこそ喧嘩好き、泣く子も黙る鬼のパンク野郎、トミー網走だった。 この時偶然にも檻からちょうど娑婆に出てきたばかりで気分は絶好調! 一度キレたら暴走列車並みに全てを破壊してそこを完全な修羅場と化す。 彼の周りには危険という言葉では言い表せないような地獄が広がっていた。 まさかの登場に完全に不意を突かれた神風と一流。 彼らに向かって網走の強烈なドロップキックが飛ぶ。 神風は軽やかな身のこなしで衝撃を和らげた。 またもや逃げる暇なく網走の全体重を乗せられた一流は反転を無数に繰り返しながら向かい側のテラスへと吹っ飛んでいった。 「むむむっ、むぐぅ、、っっっ!」 「だ、誰奴っっ!!」 神風は叫んだ。こんなにパワーのある奴は未だかつて見た事がないっ! 強烈な爆風があたりを吹き飛ばした。 神風はもうもうと砂煙で見えなくなった周囲に目を凝らした。 出るぞっ!出るぞっ! 鬼が出るっ! 奥義ともいえる「目潰し殺法」の構えに入った。 「ギッ、ギリギリッ!」 ようやく埃が空気中から落ち始め、、 なんとなくぼやけてはいるが網走という漢の姿が露になってきた。 鬼は道のど真ん中に横たわっていた。 「なっ?!」 勢いがあり過ぎてスタミナを全て使い切ってしまったのだろう。 大の字で寝たまま笑顔で放心状態。 心のバランスを取れなかったのだろう。ハイテンションだったみたいだし。 ある意味気持ちの良い漢だ。 神風は彼との間に何か近い絆のようなものを感じ取った。 会ったばかりなのに不思議なものだ。 こいつは仲間に入れるべきだと悟った。 おっと、そういやもう一人漢がいたな、、 そこら辺に突っ込んで行ったような、、 彼、一流はカフェのど真ん中にて目茶目茶に壊れた机と椅子の隙間に挟まっていた。 「う、、うぐぐぐっ」 じぇりは微かに動いた。 なんと!まだ生きていたのかっ! 神風はこの漢も認める事にした。 あれ程の衝撃を受けて生存していたとは、、こいつもなかなかタフではあるまいか。 「ふっ、、こいつら半端ねえ、、こいつら半端ねえぜ、、おい!」 こうしてボングスは結成された。 ちなみにその時後ろで一人バーベキューを行っていた男がボングスのドラマー、サバイバー141である。 |